下痢に吐き気や冷や汗を伴う原因|受診の目安と対処法
突然の下痢や吐き気、冷や汗に襲われ、「ただの食あたりだろうか」と不安になっていませんか。その症状は、家庭での食事でも起こりうる食中毒や、見過ごせない病気のサインかもしれません。
この記事では、下痢や吐き気に冷や汗を伴う場合に考えられる主な原因を詳しく解説。食中毒のほか、ストレスが関わる過敏性腸症候群や、放置すると危険な消化性潰瘍の可能性にも触れています。それぞれの症状に応じた対処法や、すぐに受診すべき目安がわかります。
ご自身の状況と照らし合わせることで、つらい症状の裏にある原因を理解し、危険なサインを見逃さずに行動できます。不安を解消し、適切に対処するための第一歩としてお役立てください。
その症状、ただの食あたり?家庭で起こる食中毒の可能性
急な下痢や吐き気…「何か変なものでも食べたかな?」と感じるその症状は、食中毒かもしれません。食中毒は飲食店だけでなく、普段の家庭での食事でも起こる可能性があります。
家庭で起こる食中毒は、症状が比較的軽かったり、家族の中で1人だけが発症したりすることも多いため、食べ過ぎや寝冷えだと思って見過ごされがちです。※
しかし、なかには重症化して入院が必要になるケースもあるため、自己判断は禁物です。特に、次のような症状がある場合は、我慢せずに早めに医療機関を受診してくださいね。
- 激しい腹痛が続く
- 冷や汗が止まらない
- 熱が高い
- 便に血が混じる
家庭での食中毒予防3原則「つけない・増やさない・やっつける」
家庭での食中毒を防ぐための基本は、食中毒の原因となる菌やウイルスを「つけない・増やさない・やっつける」という3つの原則を守ることです。※日々の生活で少し意識するだけで、食中毒のリスクをぐっと減らせますよ。
| 原則 | 具体的な行動 |
|---|---|
| つけない (清潔) |
・調理や食事の前、トイレの後には石けんで指の間や手首まで丁寧に洗う ・生肉や魚に触れた調理器具は、すぐに洗剤で洗い、熱湯消毒する ・生の食材が調理済みの食品に触れないよう、保存場所や使う器具を分ける |
| 増やさない (迅速・冷却) |
・多くの細菌は常温で急速に増えるため、購入した食品はすぐに冷蔵庫へ ・調理した料理も、室温で長く放置せず、早めに食べきる ・残った料理は、素早く冷ましてから冷蔵庫で保存する |
| やっつける (加熱) |
・ほとんどの細菌やウイルスは加熱に弱い ・肉や魚料理は、中心部の温度が75℃で1分以上になるよう、しっかり火を通す |
風邪や寝冷えと間違えやすい食中毒の初期症状
食中毒の初期症状は、下痢・吐き気・腹痛などが中心で、風邪やウイルス性胃腸炎の症状とよく似ています。※そのため、症状だけで原因を特定するのは難しいかもしれません。
一般的に、風邪の場合はお腹の症状よりも、咳・鼻水・のどの痛みといった呼吸器の症状が目立つことが多いでしょう。一方で食中毒の場合は、お腹の症状がメインで現れる傾向にあります。
ただし、原因となる菌やウイルス、その時の体調によって症状の出方はさまざまです。
お腹の調子がおかしいと感じたら、次の点も判断のヒントにしてみてください。
- 何か特別なものを食べなかったか
- 同じものを食べた人に、同じような症状は出ていないか
つらい症状が続く場合や、ご自身での判断に迷うときは、決して我慢せず、お気軽に当院のような消化器内科にご相談くださいね。
繰り返す下痢と腹痛 ストレスが関わる過敏性腸症候群(IBS)
検査をしても腸に炎症や潰瘍といった特別な異常が見つからないのに、下痢や腹痛が繰り返し起こる…。そのつらい症状は、ストレスが引き金となる過敏性腸症候群(IBS)かもしれません。
実は、私たちの脳と腸は、自律神経などを通じてお互いに深く影響し合っています(脳腸相関)。
強いストレスや緊張を感じると、脳が受け取ったその刺激が腸に伝わり、腸がゴロゴロと異常な動きをしてしまうことがあるのです。
「大事な会議の前に限ってお腹が痛くなる」
「通勤電車に乗ると、急にトイレに行きたくなる」
このような経験はありませんか?
過敏性腸症候群は、日本人の10人に1人以上が悩んでいるともいわれ、決して珍しい病気ではありません。気のせいや精神的な弱さのせいではなく、はっきりと体の機能に不調が起きている状態なのです。

生活習慣の見直しから始めるIBSの対処法
過敏性腸症候群(IBS)の治療は、まずご自身の生活を一つひとつ見直すことからスタートします。
お薬で症状を抑えることも大切ですが、それと同時に、症状の引き金になりやすい生活の乱れを整えることが、根本的な改善につながります。具体的には、次のような点を意識してみてください。
- 食事の工夫
1日3食を規則正しく、ゆっくりよく噛んで食べましょう。香辛料などの刺激物や脂っこい食事、アルコールは腸を直接刺激し、動きを過剰にさせてしまうことがあるため控えめに。近年、下痢をおこしやすい食事である「高FODMAP食」が提唱されており、これらの食材を避けることで症状緩和に効果があることが証明されています。 - 十分な睡眠
寝不足は自律神経のバランスを乱す大きな原因です。毎日なるべく同じ時間に寝起きして、睡眠のリズムを整えましょう。 - 適度な運動
ウォーキングのような軽い運動は、ストレス解消に役立つだけでなく、腸の動きを安定させる効果も期待できます。 - ストレスとの付き合い方
ストレスを完全になくすのは難しいかもしれません。趣味の時間を作る、お風呂にゆっくり浸かるなど、自分に合った方法で上手にストレスを受け流す工夫を見つけることが大切です。
まずはこれらの生活調整を4〜8週間ほど試してみて、症状がどう変化するかを見ていくのが治療の基本です。※
専門医による薬物療法や心理療法
生活習慣を工夫しても症状がなかなか良くならない…そんなときは、我慢せずに専門医の力を借りましょう。お薬の力を借りたり、専門家と話をしたりすることで、つらい状況から抜け出すきっかけが見つかるはずです。
治療では、患者さん一人ひとりの症状に合わせて、次のようなお薬を使い分けていきます。
| 症状のタイプ | 主な治療薬の例 |
|---|---|
| 下痢がひどい | ・腸の異常な動きを穏やかにする薬 ・便の水分バランスを整える薬 |
| 腹痛がつらい | ・腸のけいれんを和らげる薬(抗コリン薬など) |
| ストレスが強い | ・脳や腸の過敏さを和らげる抗不安薬や抗うつ薬 |
また、まれに食事の消化を助ける胆汁酸がうまく吸収されないことが下痢の原因になっていることもあります。この場合は、胆汁酸を吸着する特殊なお薬がとても効果的です。※
お薬と並行して、ストレスとの付き合い方を学ぶための心理療法(カウンセリングなど)を行うこともあります。
つらい症状を一人で抱え込む必要はありません。当院のような消化器の専門医と一緒に、あなたに合った治療法をじっくり見つけていきましょう。
激しい腹痛や黒い便は要注意 消化性潰瘍の危険なサイン
下痢や吐き気に加えて、みぞおちや背中にキリキリと続くような痛み、あるいは黒っぽい便が出た場合、それは消化性潰瘍かもしれません。
消化性潰瘍とは、強い酸性の胃液などによって、胃や十二指腸の粘膜が深くえぐられてしまう病気です。
単なる胃腸炎とは違い、放置すると危険な状態につながることもあるため、注意が必要な症状といえます。
喫煙や過度の飲酒、強いストレス、睡眠不足なども潰瘍を悪化させる要因になるため、日頃の生活習慣を見直すことも大切ですよ。※
潰瘍からの出血を示す症状(吐血・黒色便)
潰瘍が深くなって血管を傷つけると、出血が起こり、吐血や黒い便として体にサインが現れます。
便が黒くなるのは、出血した血液が胃酸に触れて酸化し、黒く変色するためです。
まるでイカ墨や海苔の佃煮のような、ドロッとした真っ黒な便が出たら注意してください。
また、吐き出したものが真っ赤な血ではなく、コーヒーのかすのように茶色っぽい場合も、胃からの出血が考えられます。
出血の量が多いと、体の中では貧血が進んでしまいます。
そのため、次のような貧血の症状を伴うことも少なくありません。
- めまい
- ふらつき、立ちくらみ
- 動悸
これらのサインは、体が発している緊急のSOSです。
昼夜を問わず、すぐに医療機関を受診するようにしてくださいね。※
放置すると命に関わる穿孔(穴があくこと)のリスク
消化性潰瘍を治療せずに放置してしまうと、胃や十二指腸の壁に穴があいてしまう穿孔(せんこう)という、命に関わる状態に進む可能性があります。
胃に穴があくと、強い酸性の胃液や消化の途中の食べ物が、本来は無菌であるお腹の中に漏れ出してしまいます。
その結果、お腹全体に急激で激しい炎症(腹膜炎)が起こるのです。
この時の痛みは、これまでに経験したことのないような、振動でひびくような痛みと表現される、耐えがたい激痛です。※
「これくらいで救急車を呼んでいいのかな…」などと迷う必要はありません。
ご自身やご家族にこのような症状が現れたら、一刻も早く治療を始めるため、ためらわずに救急車を呼ぶなどの対応をしてください。
自己判断で薬をやめないことの重要性
消化性潰瘍の治療でとても大切なのが、症状が良くなったと感じても、ご自身の判断でお薬をやめないことです。
処方された胃酸を抑えるお薬などを飲み始めると、つらかった腹痛などの症状は比較的すぐに和らぐことが多いかもしれません。
しかし、症状がなくなったからといって、潰瘍が完全に治ったわけではないのです。
粘膜にできた深い傷がすっかりきれいになるまでには、通常6〜8週間ほどの時間が必要だと考えられています。※
もし途中で治療をやめてしまうと、潰瘍が再発したり、出血や穿孔といったより重い合併症を引き起こすリスクが高まってしまいます。
必ず医師の指示通りに、最後までお薬を飲み続けるようにしましょう。
専門機関が推奨する下痢の時の食事と過ごし方
下痢のときは、なによりもまず弱った胃腸を休ませることが回復のために重要です。つらい症状がある間は、無理に食事をとる必要はありません。
ただし、下痢によって体から失われがちな水分とミネラルをしっかり補給することは、回復のためにとても重要です。吐き気がある場合は、常温の経口補水液やスポーツドリンクを、一気に飲まずに少しずつこまめに飲むのがおすすめですよ。
食欲が少し戻ってきたら、胃腸にやさしいものから食事を再開していきましょう。
消化の良いものを少量ずつ食べる
食事を再開する際は、消化の良いものを少量ずつ、ゆっくりと口に運ぶのが基本です。下痢で弱った胃腸は、一度にたくさんの食べ物を消化する力がないため、負担をかけると症状がぶり返してしまうかもしれません。
まずは、次のような胃腸にやさしい食べ物から試してみてくださいね。
【消化に良い食べ物の例】
- おかゆ、おもゆ
- よく煮込んだうどん
- 食パン
- すりおろしたリンゴ
- 具材を細かく刻んだ野菜スープ
- 豆腐
- 白身魚の煮付け
食欲がなければ、決して無理は禁物です。食べられるものを、1日のうちに何回かに分けて食べる工夫も効果的でしょう。※
症状が落ち着いてきたら、便の状態を見ながら少しずつ普段の食事に近づけていきましょう。
症状を悪化させる可能性のある飲み物・食べ物
下痢の症状があるときは、胃腸への刺激となる特定の食べ物や飲み物が、回復を遅らせてしまうことがあります。胃腸が元気を取り戻すまでは、少しお休みするのが安心です。
特に、以下のリストにあるようなものは症状を悪化させる可能性があるため、注意してくださいね。※
| 種類 | 具体例 | なぜ避けるべきか |
|---|---|---|
| 脂肪分の多いもの | 揚げ物、ラーメン、脂身の多い肉、生クリーム | ・消化に時間がかかり、胃腸に大きな負担をかけるため |
| 刺激の強いもの | 香辛料(唐辛子など)、炭酸飲料 | ・胃腸の粘膜を直接刺激してしまうため |
| カフェイン・アルコール | コーヒー、紅茶、緑茶、アルコール飲料 | ・腸の動きを必要以上に活発にしてしまうため |
| 冷たいもの | 冷たいジュース、アイスクリーム | ・お腹を冷やし、血行を悪くするため |
| その他 | 牛乳・乳製品、食物繊維の多いもの(ごぼう、きのこ類など) | ・下痢を悪化させたり、消化しにくかったりするため |
安静にしてお腹を温めることの効果
体を休めてお腹を温めることは、つらい腹痛を和らげるのにとても効果が期待できます。お腹を温めると、お腹まわりの血行が良くなり、痛みの原因となる筋肉の緊張がほぐれやすくなるのです。
体を横にして、お腹をかばうように少し丸くなるなど、ご自身が一番楽だと感じる姿勢でゆっくり過ごしてくださいね。
お腹を温めるには、次のような方法があります。※
- 腹巻きをする
- お腹に毛布やタオルケットをかける
- カイロや湯たんぽを使う(※低温やけどには十分注意しましょう)
また、下痢が続くとお尻の皮膚が荒れてしまいがち。トイレの後はシャワーでそっと洗い流したり、優しく拭き取ったりして、清潔に保つことも大切なケアの一つです。※
医師に症状を正しく伝えるための準備
つらい症状のなか、診察でうまく話せるか心配になりますよね。でも、大丈夫。いくつかのポイントを事前にメモしておくだけで、医師に状況がぐっと伝わりやすくなります。
それは、的確な診断と、あなた自身が早く楽になるための大切な一歩。ぜひ、受診の前に少しだけ準備をしてみてくださいね。
いつから、どんな症状が、どのくらいの頻度で起きたか
症状の始まり方や変化の様子は、原因を探るための探偵の”手がかり”のようなもの。急に始まったのか、じわじわと悪くなったのかで、疑われる病気が変わってくることがあります。
スマホのメモ機能などを使って、思い出せる範囲で書き出しておくと安心ですよ。
- いつから?
例:「昨日の夜10時ごろから」「3日前の朝から」など - どんな症状が?
- 下痢:水っぽかったか、泥状だったか。血が混じっていないか(色は鮮やかな赤?それとも黒っぽい?)
- 吐き気・嘔吐:ムカムカするだけか、実際に吐いたか。吐いた回数は?
- 腹痛:お腹のどのあたりが痛むか(みぞおち、下腹部など)。痛み方は?(キリキリ、シクシク、差し込むような痛みなど)
- その他:冷や汗はいつ出るか(腹痛がひどい時など)、熱、頭痛、めまいなど
- どのくらいの頻度で?
例:「下痢は1日に5回」「腹痛は1時間に1回、波のようにやってくる」など
直前に食べたものや最近の行動
「何か変わったものを食べたかな?」と考えてみることは、原因究明の大きなヒントになります。食中毒は外食だけでなく、普段の家庭の食事でも起こる可能性がありますからね※。
ご自身やご家族の状況を、少し振り返ってみましょう。
- 食事について
- 症状が出る前日〜5日前に何を食べましたか?(特に、生ものや加熱が不十分だった肉・魚介類など)
- 外食はしましたか?
- 同じものを食べた人で、具合が悪くなった方はいませんか?
- 最近の行動について
これらの情報は、パズルのピースのように、診断の大きな助けになります。
病院で行われる主な検査
診察でお話を伺ったうえで、原因をはっきりさせるために、必要に応じていくつかの検査を行います。どんな検査で何がわかるのかを知っておくと、少し安心して臨めるかもしれませんね。
下表に主な検査を整理しました。
| 主な検査 | この検査でわかること |
|---|---|
| 血液検査 | ・体の中の炎症の強さや脱水、貧血の有無などを数値で確認します |
| 便検査 | ・下痢の原因となる細菌がいないか ・便に目には見えない血液が混じっていないかなどを調べます |
| 画像検査 (腹部超音波など) |
・お腹の中の臓器の状態を見て、腸閉塞や胆のう炎といった他の病気が隠れていないかを確認します |
| 内視鏡検査 (胃カメラ・大腸カメラ) |
・胃や大腸の粘膜を直接カメラで観察し、潰瘍や炎症がないかを確かめる、とても正確な検査です※ |
参考文献
- 日本消化器病学会. 患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023.
- 日本消化器病学会. 患者さんとご家族のための過敏性腸症候群(IBS)ガイド2023.
- 厚生労働省. 食中毒.
- 厚生労働省. 感染性胃腸炎.
- 国立がん研究センター東病院. 下痢について.
